確か、そんな名前だった



今日の日のような



今日の日の、この空のような



名前



「ふあぁ・・・。」
早く起きすぎた。ねみぃ・・・。
あの公園にでも行って、午後の練習までにちょっと体動かすか。

太陽が、チャリのハンドルを持つ手を痛いほど照らしてくる。
朝ぐらい涼しくたっていいのに。
真っ青な、まぶしい空を見上げて思う。


ダムッ・・・ダムッ・・・ダ・ダムッ


・・・お、先客がいる。にしてもリズムの悪いボールの音だ。
誰だよ。
公園に足を踏み入れる。

「はぁ、入んないわぁ。」

あいつだ。
そりゃあ、あのリズムの悪さじゃ入んねぇよ。
仕方なく、フェンスに寄りかかってしばし見学。
あいつ、本当にどんくせーな。3本に1本位しかシュート入ってねえじゃねーか。
そろそろどけろよ。

「ふぅ、疲れたぁ。」
あいつはどけるどころか、リングの下に座り込んで休憩しはじめた。


もうしょうがねぇ。どかせよう。
「おい。」
「え?」
そいつは座ったまま俺を見上げる。
「わ!流川君!おはよう。」
のんきな返事。
「終わったんなら向こうで休憩しろよ。」
「あ、ごめんなさい。すぐどけるわ。」
そいつはバタバタと荷物をかき集めベンチに向かった。鈍くさいそいつらしく、途中でタオルを落として。
しかも気づいてないし。


「おい。」
「・・・?」
「タオル。」
落ちたそれを指差して言った。
「ああ、ありがとう。」


タオルを拾ったそいつはベンチに向かわず、その場に立ったままで俺の名前を呼んだ。
「流川君。」
「・・・。」
俺は顔だけあいつの方に向けた。
「流川君は私の名前なんて覚えてないのね。いまだに『おい』だもんね。」

数秒の沈黙。
いきなり何を言い出す?
「・・・あ、いや、なんでもない!気にしないで!!って気にしないよね。」
あいつは一瞬笑ったけど、すぐにいつか見たような泣きそうな顔になって
ベンチの上で 荷物を片付けはじめた。



名前?
そういえば、いつだったか自己紹介されたような。
新しいマネージャーが入ったから、って先輩に呼ばれて。


あいつの名前・・・。
そういえば、あのどあほうが毎日呼んでるような。うるさいくらい。






確か


こんな空のような。


こんな真っ青な空のような名前。





あいつは荷物をまとめ終えると、さっきと同じ表情でこっちを向いた。
「じゃあ、また後でね。」





やっと
思い出した。





そいつの名前は、曇り空のような表情には似合わねぇと思う。





俺は、その名前を呼んだ。
公園を去っていくそいつの背中に向かって
自分の口から初めて出たその言葉に少し戸惑いつつ。



あいつは振り返り、なぜかもっと泣きそうな顔になって、その後笑った。



ほらな。その顔のほうが似合うじゃねーか。










そいつの去っていった空間を見ながら
もう一度、確かめるように


その名前を口に出す。










「晴子。」










今日の日の、この空のような名前。










END










★2004.8.13★なんだか、書いてて今までで一番恥ずかしかったかも!?流川が初めて晴子ちゃんの名前を呼んだ日の話!またちょっと進展したかなぁ?晴子ちゃんも、ちょっとだけど自分の気持ちを言い出せてるところが自分ではお気に入り(汗)。
読んで下さってありがとうございました。
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